チュートリアル 10:シンセシス
ビブラートとFM

MSPでの基本的な周波数変調(FM)

周波数変調(FM)は、シグナルの周波数を、他のシグナルによって変調(モジュレート)することによって変化させるものです。最も一般的な方法は、サイン波によるキャリア波周波数が、サイン波によるモジュレート・オシレータの出力によって連続的に変えられるというものです。モジュレータは、キャリア波が持っている一定の基本周波数に加えられます。


シンプルな周波数変調(FM)

上の例はFMのための基本的な設定を示しています。モジュレートするオシレータの周波数がモジュレーションのレート(速さ)を決定します。そして、モジュレータの振幅は効果の「depth(強さ)」を決定します。

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モジュレータのサイン波の動きは、キャリアの周波数を1015Hzから885Hzまで変化させます。この周波数の変化は毎秒6サイクルであるため、1000Hzを中心とした6Hzのビブラートを聞くことができます。(これがトレモロとは基本的に異なることに注意して下さい。トレモロでは、周波数ではなく振幅が変化しています。)

・"Modulation Depth" と表示されたナンバーボックスで上へドラッグし、モジュレータの振幅を変更して下さい。モジュレータの振幅が増加するにつれて、ビブラートはだんだん広くなります。Modulation Depthを500にセットして下さい。

このような強烈な周波数変調では、もはや実際にキャリア周波数を聞くことはできません。音が非常に速く1000Hzを通り過ぎてしまうため、その周波数を聞くことができないからです。そのかわり両端の周波数(500Hzと1500Hz)を聞くことができます。それは、出力される周波数が実際にその箇所で時間をより多く費やしているからです。

1500Hzが1000Hzより完全5度上のであるのに対して、500Hzが1000Hzの1オクターブ下である点に注意して下さい。このように、500Hzと1500Hzの間の音程は完全12度です。(期待どおり、その周波数比は1:3になります。)そのため、中心周波数からの等しい周波数の変化は、中心のピッチから等しい音程で上下に変化するようなビブラートにはならないことがわかります。(チュートリアル17で、上下に同じ音程で変化するようなビブラートを作る方法について述べます。)

・Modulation Depthを1000にセットして下さい。それから、"Modulator Frequency"と表示されたナンバーボックスで上の方へゆっくりドラッグして、いろいろな効果を聞いてみて下さい。

モジュレータの周波数がオーディオ領域に接近するにつれて、もはやモジュレータ個々の振動は聞くことができなくなります。モジュレーション・レートは、それ自体が低音として聞こえるようになります。モジュレーション周波数がオーディオ領域(およそ50Hz)に入ってくると、FMのプロセスによって生じる側帯波が複雑に結合されたものが聞こえ始めます。これらの側波帯の明確な周波数は、キャリアとモジュレータの周波数間の関係に依存します。

・"Modulator Frequency"と表示されたナンバーボックスを、1000までドラッグして下さい。結果が、1000Hzを基本周波数とする豊かな倍音成分を含む音であることに注意して下さい。モジュレータ周波数に500、250、125を入力して試してみて下さい。そして、基本周波数の変化がどのように知覚されるかに注意して下さい。

それぞれのケースで知覚される基本周波数は、モジュレータ周波数と同じです。しかし、実際はモジュレータ周波数だけによって決定されるのではなく、キャリア周波数とモジュレータ周波数との間の関係によって決定されています。これは、次の章でより詳細に調べることにします。

・モジュレータ周波数として125を入力して下さい。そして、"Modulation Depth"ナンバーボックス上で上下にドラッグし、激しく変化させて下さい。音色が変化するのに対し、ピッチは同じままであることに注意して下さい。

FM音の音色は、モジュレータ周波数に対するモジュレータ振幅の比に依存します。これもまた、次の章で詳しく説明することにします。

まとめ

周波数変調(FM)は、時間変化シグナルをオシレータの一定の周波数に加算することによって実現されます。サブオーディオ(可聴閾未満)領域のモジュレート周波数はビブラート効果に適していて、オーディオ(可聴閾)領域のモジュレート周波数は、多種多様な音色を作り出すことができます。サウンドを作るために2つのオシレータしか必要とされない場合でも、FMによって作られる豊かな複合音は多くの部分音を含んでいます。これは、計算の効率の上で加法シンセシスに比べて大きな改善です。