利点と限界

MSPの限界

これまでの説明から、ディジタルオーディオ処理がたくさんの「ナンバクランチング(数値演算処理)」を必要とすることは明らかです。コンピュータは、サウンドのチャンネル1つにつき毎秒数万のサンプル値を生成しなければなりません。そして、各々のサンプルはシグナルネットワークの複雑さによって、多くの演算を必要とします。さらに、「リアルタイム・オーディオ」を作り出すためには、サンプルは少なくとも演奏されるのと同じ時間で計算されなければならないのです。 

この複雑なリアルタイム・サウンド・シンセシスを、汎用パーソナルコンピュータで行うことは、PowerPCのような十分に速いプロセッサが導入されるまでは、全く問題外でした。しかしPowerPCでさえ、このタイプのナンバクランチングは、プロセッサの多くの対応を必要とします。そのため、コンピュータがMSPで処理できる量の限界を認識していることは重要なことです。

MIDIシンセサイザとは異なり、MSPは、コンピュータがリアルタイムで演算するには複雑すぎるようなものでも設計できるほどの柔軟性を持っています。その結果、オーディオの歪み、コンピュータのレスポンスの低下、また極端な場合にはクラッシュを引き起こします。

コンピュータによってプロセッサの処理能力は様々であり、可能なシグナルネットワークの構成は非常に多様なので、オーディオ処理の複雑さが、MSPが扱えるものであるかどうか正確に述べるのは難しいことです。ここでは、いくつかの一般的な原則を示します。

* コンピュータのCPUがより速ければ、MSPのパフォーマンスは向上します。PowerPC 604または、より新しいプロセッサ を使ったコンピュータを強く推薦します。PowerBook 5300シリーズは特にMSPを実行するのに相応しくないので、推薦できません。

* Maxアプリケーションにより多くのRAMを割り当てることによって、MSPで利用できるバッファメモリを増やすことができ、より多くのオーディオ・データを取り扱うことができます。

* 速いハードディスクと速いSCSI接続は、オーディオ・ファイルの入出力を改善します。

* アップルトークや、プロセッサの時間を使う他の同様な処理をを切ることによって、MSPのパフォーマンスを改善することができます。ファイルシェアリングや、ネットワーク集中型の他のアップルトーク処理は、サウンドマネージャを使用している場合、MSPをフリーズさせる可能性があり、最もよい状態でも出力にクリック音を生じます。フリーズの問題はMaxバージョン3.5.9で解決されています。また、PowerMac G3 でSystem 8を使用している場合に起る出力のクリック音については、System 8.1で解決されています。

* オーディオ・サンプリングレートを減らすことは、MSPが計算しなければならない、与えられたサウンドの数値の量を減らすことになります。これは、パフォーマンスの改善(低いサンプリングレートは高い周波数のレスポンスを劣化させますが)につながります。オーディオ・サンプリングレートのコントロールについては、「オーディオの入出力」の章で論議されます。

MSPインストゥルメントを設計する場合、いくつかのオブジェクトは、他のものより集中したコンピュータの使用を必要とするということを心に留めておかなければなりません。シンプルな少しの演算命令だけを行うようなオブジェクト(例えば、sig~、line~、+~、-~、*~、phasor~など)はコンピュータにとっての負担は多くありません。(しかし、/~はより負担がかかります。)ファンクション・テーブルから数値を探したり、値の補間を行うようなオブジェクト(cycle~等)はあまり多くの計算を必要としないので、同様に、あまり負担にはなりません。最も負担の大きいオブジェクトは、サンプル毎に多くの計算を必要とするもの:フィルタ(reson~、biquad~)、スペクトルアナライザ(fft~、ifft~)、そしてplay~、groove~、comb~、tapout~といったオブジェクトで、パラメータを連続したシグナルでコントロールする場合です。処理の効率については、チュートリアルで更に論議されます

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